はじめに
前回記事では、売却を行うにあたっての基礎知識とも言える「両手仲介」と「囲い込み」について触れました。
今回は売却のタイミングについてまとめます。売り時はいつなのかです。
最適な売却タイミングはいつか
マクロでは、不動産価格が上昇していて買い手が前向きなタイミングが良いと考えます。不動産売買は売りを起点に始まりますが、買い手がいないと成立しないためです。
不動産価格が上昇している時は買い手が購入に前向きで検討者が多く、下落時は後ろ向きで検討者が少ない傾向にあります。検討者の母数が多い価格上昇期の方が売りやすいと考えます。
一方でマクロでベストな売却タイミングを読むことは将来の不動産価格を読むこととほぼイコールになるため予測は困難です。また多くの場合「売る=次の住まいを買う」なので高く売れる市況であれば次の住まいも高くなっているので、手残りが増えるわけではありません。
よって売りありきで次の住まいを買う(≒探す)のではなく、現居よりQOLの上がる次の住まいへの住み替えを起点に売りを考えるのが望ましいかと思います。
マクロでは売り時は予想できないと書きましたが、ミクロでの売り時は存在します。
基本的に不動産価格は需給バランスで決まりますが、ミクロでは需給バランスが崩れる瞬間があります。そのタイミングが狙い時です。
①新築マンションの販売
現居周辺で新築マンションの販売が始まると需要が増えます。新築マンションのデベロッパーの多くは多額の広告費をかけて広域から検討者を呼び込みます。よって多くの人がそのエリアに注目することになります。
一方で新築マンションは周辺の中古よりも10%〜20%程度割高な価格設定であることが一般的であるため、「マンションやそのエリアに興味を持ったけど買えなかった人」が出てきます。新築マンションの歩留まりは10%程度と聞きますので、90%近い人はエントリーしたマンションを買いません。買わなかった一部の人は周辺中古マンションの検討者候補になりますので需要が増加します。
新築マンションの販売によって供給も増えるため、新築マンションとの差別化(主に価格)は必要になりますが、上記の通り新築マンションは周辺中古よりも割高な価格で販売されるケースが多いため、新築マンションより安い価格であっても以前より高値で売却できるケースもあります。
尚、この「新築マンション」は大規模であればあるほど周辺マンションに与える影響は大きくなることから売り手目線では望ましいです。規模が大きいと販促費によりコストを掛けることができますし、大規模マンションは様々な付加価値で集客を行うことができるためです。逆に小規模のマンションは上記の集客効果が限定的あるため、売却のチャンスにならないケースもあります。
②マンション/エリア内での売り出し数が減ったタイミング
中古マンションは周辺地元住民が主なターゲットになります。そのため、自分が住んでいるエリアの売り出し数の多少は売れやすさに影響します。比較的規模が大きく指名買いが入るようなマンションの場合は、マンション内の売り出し数も要確認です。
加えて、売り出し数の総量だけでなく間取り別の売り出し数にも注目すべきと考えています。例えばエリア/マンション内の売り出しが2LDKばかりで3LDKが枯渇している時は3LDKの売りチャンスです。(ただしそのエリアに3LDKの需要がないが故に売り出しがないケースもありますので、その点はご注意ください)
ということで、マクロで見ると高く売れる時は高く買う時なのでタイミングを読む旨みは少ないですが、ミクロで見ると市場平均以上に高く・早く売れるタイミングは存在します。ただし、自分でコントロールできないものばかりなので、過度にタイミングを狙いすぎてご自身のライフプランが崩れることのないよう注意が必要です。何のために住まいを売り買いするのか、その目的を忘れてはいけません。
空室で売るか、居住中に売るか
次は「空室で売る」か「居住中に売る」かについてです。
まず前提として、次の住まいも購入かつ住宅ローンを利用する場合は新居の住宅ローンの融資条件によって売り方も変わってきます。
新居の住宅ローンの融資条件における前居の住宅ローンの取り扱いは大きく次の3つです。
- 前売り:新居の融資実行前に前居住宅ローンを完済する
- 後売り:新居の融資実行後に前居住宅ローンを完済する(引き渡しから6ヶ月〜1年以内の制限が付くことが多い)
- 切り離し:前居の住宅ローンを切り離して新居の融資が可能(前居の住宅ローンを全く見ない)
この内「空室で売る」選択が取れるのは「後売り」と「切り離し」のケースに限ります(前売りでも一時的に別の場所に仮住まいをすることで可能ではありますが、コストと労力の観点で個人的には推奨しません)。
前売りになるか後売り・切り離しになるかは現居を売却した際の残債割れリスク有無が影響します。現居の住宅ローン残債に対して、売却想定価格が120%くらいあると後売りや切り離しが採用されやすいですが、銀行によって判断は変わります。また住宅ローンに前向きな銀行は後売りや切り離しの条件が出やすかったりなど違いがあります。住宅ローンの細かい話やおすすめについてはスムラボの記事でまとめていますので良かったら合わせてご覧ください。
ということで、後売り・切り離し条件が付いた場合は、空室で売るか・居住中に売るかを選ぶことができます。
売り出しから早く・高く売りたいなら「空室で売る」、手間がかかるし売れづらいけど前居と新居のWローンを回避(=新居引き渡しタイミングで前居のローンを完済)したいなら「居住中に売る」です。個人的には選べるなら、利益最大化の観点で空室で売ることをおすすめします。
「空室で売る」メリットについて、もう少し深堀りします。
売れやすさの観点ですが、新築マンションのモデルルームをイメージしてみてください。あれはデベロッパーが今までの経験を元に早く・高く売れるために試行錯誤した結果です。基本的にモデルルームにどこまで費用をかけずに近づけられるかがポイントになると考えます。「費用をかけずに」がポイントです。
そう考えた時に元々住んでいる住人の生活感が滲み出ているのはほとんどの場合でマイナスです。埃の溜まったテレビボードや使用感のある水回りがプラスに働くわけがありません。思い出と汚れとシミが詰まったソファはその家族にとってはかけがえのないものですが、赤の他人の加点要素にはなりません。
また見ず知らずのおじさんがいきなり出てきてこのマンションのウリなんて語られたら普通の人は引きます。菅田将暉と小松菜奈レベルの美男美女夫婦であれば住んでいたことがプラスに働く可能性もありますが、普通のおじさんが出てきた瞬間、「あのトイレや風呂はこのおじさんが使っているのか…」とそれだけで普通の人なら購入意欲が下がります。買わない理由になります。もしあなたが早く・高く自分の住まいを売却したいのであれば、おじさんを世に出さないよう封印することが重要です。
住んでいる人が住心地の良さや周辺環境を語ってアピールした方が…なんて声もあるかもしれませんが、それは本来仲介の仕事と考えます。一住人である売主がサポートしないといけないようなレベルの担当であれば、会社/担当選びを誤っていますので切り替えを検討すべきです。仲介担当が知り得ない隣人との関係等トピックスがあれば事前に仲介担当にインプットしておけば良いだけです。
集客の多くはポータル経由になりますが、その中でも写真の印象はCVを大きく左右します。住宅購入検討者の多くがSUUMOをはじめとしたポータルサイトを見ていると思いますが、綺麗な写真が豊富にあるマンションは目に止まりやすいですし、内見をしてみようと思いやすいはずです。居住中で室内に物が溢れている部屋よりも空室で小綺麗な部屋の写真の方が内見に繋がりやすいです。
また内見においては部屋に入った際のファーストインプレッションが購入の意思決定に大きく影響するため、部屋が綺麗で生活臭がしないことも重要です。部屋の清掃を入れることは、内見者の購入確率を上げる観点で効果があります。
①おじを封印して②空室にして③できれば室内のクリーニングを入れておくだけで他売り出しと差別化でき、早期高値売却の可能性が高まります。
続いては内見の手間です。
居住中の売却となると、内見の申込が入るたびに部屋の大掃除をして、スケジュール調整をする必要があります。内見は大抵土日ですが売主の立会がマストになるので、貴重な土日が潰れます。
一度の内見で決まればいいですが、そもそも上記の通り「居住中の売却」は売れづらいので、割安価格で売りに出さない限りは複数回の内見対応が必要になります。
この内見対応がとても大変です。特に子どものいる家庭は内見の手間が飛躍的に増します。
空室売却であれば鍵を仲介担当に渡すことで内見対応の全てを任せることができます。内見対応で消耗するくらいなら空室売却にして、内見対応していた時間を家族の思い出作りに使った方がよっぽど有意義です。
最後はWローンによる損失についてです。
空室売却の場合、住宅ローンが二重で走ることで一時的なキャッシュアウトが増加します。これを毛嫌いして居住中売却を選ぶ人も一定数いるかと思いますが、Wローンが走ることによる経済的損失について整理します。
売却価格が変わらないと仮定すると、毎月支払う住宅ローン分残債も減るので、損失はありません。毎月20万円を住宅ローンの支払いと仮定すると、その支払いは大変ですが毎月20万円分残債が減るので売却した際の手残りも増えます。20万円/月の支払いで5ヶ月Wローンが続くと100万円追加でキャッシュアウトが発生しますが、同額分残債が減るので売却時の手残りが100万円増えることになります(わかりやすさを重視するため金利・管積・税金等諸経費は未考慮)。
そうなるとWローンが発生した時にアドオンとなる主なコストは管理費・修繕積立金・住宅ローンの金利・固定資産税/都市計画税になります。全部合わせても4〜5万/月程度です。居住中売却の手間やより高く売れる可能性を考えると個人的には大きなコストとは思いませんでした。
さいごに
売却のタイミングについてまとめました。
売り時を読むことは難しいので、買いを起点に売りを考えること。ミクロの需給バランスによる売りタイミングはあるので、周辺の売り出しをチェックしておくことは重要です。
また高値売却を目指すのであれば空室売却をおすすめします。
次回はいよいよ仲介会社選定編(予定)です。売却の肝となる仲介会社選定についてまとめたいと思います。
マンション購入・売却でご相談があれば以下フォームより受け付けておりますので、お気軽にご利用ください!
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